現代の紛争は、宗教的な対立として語られることが多い。
だが実際にはそれ以上に、国家、文化、歴史、そして秩序同士の衝突として捉えるべきである。
宗教はその一形態にすぎない。
紛争とは、宗教対宗教ではなく、秩序と秩序の衝突である。
ガザ問題に見る秩序の摩擦
イスラエルとハマスの対立は、単なる宗教的な争いではない。
1947年の国連分割案、イスラエル建国、パレスチナ人の土地喪失と難民化、そしてガザ地区の封鎖──
これらの歴史的積み重ねが、宗教を「象徴」として争いを正当化する構造を生み出している。
イスラエルはユダヤ教的秩序を、ハマスはイスラム的秩序を掲げる。
だがその根底には、国家の正当性、民族の記憶、土地の権利という秩序の衝突がある。
宗教はその秩序を支える言語であり、動員の手段であり、正義の象徴でもある。
だが、それ自体が原因なのではない。秩序がぶつかっているのだ。
宗教は秩序の言語である
宗教は、個人の不安や死への恐れに「意味」を与える装置であり、
集団を秩序づけるための象徴的な枠組みでもある。
「天国に行く」「復活する」「この世の終わりが来たら生き返る」──これらは宗教的思想の一部であり、死後の世界を語ることで人々の行動を方向づける。
だが、それは、”言葉によって構築された“支えのように感じさせる秩序”なのかもしれない。
火葬か土葬か──それ自体は問題ではない。
だが、それを「正しい」「間違っている」と判断するのは、宗教的な価値観であり、人間が制度化した秩序の一部なのだ。
中国の例:宗教なき秩序の構築
宗教を利用して国家を統治する例は多い。
だが、中国はその逆を示している。ここでは、宗教的象徴を排除し、儒教的倫理と社会主義的価値観を統治の基盤に据えている。
儒教の「礼」「孝」「忠」は、個人の道徳と社会秩序を結びつける。
これは、宗教的熱狂を避けつつ、国家の秩序を補完する思想的装置として機能している。
偶像崇拝の否定、宗教施設の監視、国家による信仰の中国化──これらは、宗教以外の秩序が存在し、機能していることの証明でもある。
紛争の本質は「秩序と秩序の衝突」
宗教が戦争の原因とされることは多い。
しかし、実際には資源、領土、民族、政治的権力、歴史的傷が複雑に絡み合っている。
宗教はしばしば「動員の手段」として使われるにすぎず、本質的な原因は秩序そのものにある。
国家、宗教、文化、歴史──それぞれが独自の秩序を持ち、それがぶつかり合う。
そしてその秩序の中で生きる人々は、自分の文化、価値観、死生観、正義の感覚までも、その秩序によって形づくられている。
兵士も民間人も、自らの意思で動いているようでいて、実は秩序に動員された存在であり、構造の歯車として機能させられている。
思想の自由と秩序の限界
人間の思想は自由だ。誰でも何を考えてもいい。
でも、その思考さえも、言語・文化・制度という秩序の中でしか表現できない。
自由であるはずの思考が、すでに秩序の中に組み込まれている──それが現代のパラドックスだ。
宗教も国家も、理念を掲げ、秩序を作り、感情を動かす。
それはすべて、人間を管理するための装置である。
そしてその装置は、時に人間の自由を「守るふりをして、縛る」こともある。
ガザ戦争終結への戦略:記憶から誓約へ
イスラエルという国家、そしてネタニヤフ首相の強硬姿勢の背景には、ホロコーストという深い集団的トラウマがある。だが、今は変革の星が巡っている。国家として、記憶を「恐れの根拠」ではなく「未来への誓い」に変える時期だ。
そのために必要なのは、国際秩序の再設計だ。
国際制度の提案:「人道的不可侵原則」と司法の再構築
1. 国際誓約の創設
- 名称:「人道的不可侵原則(Principle of Humanitarian Non-Violation)」
- 目的:ホロコースト、ジェノサイド、民族浄化などの歴史的迫害を踏まえ、いかなる国家も人道的尊厳を侵害しないことを誓う
- 内容:
■ 集団的迫害の禁止
■ 民間人への無差別攻撃の非合法化
■ 国家による宗教・民族差別の排除
■ 歴史的トラウマの記憶を共有し、教育に組み込む義務
2. 国際司法の強化
- 国際刑事裁判所(ICC)の即応性と独立性を高める
- 国際司法裁判所(ICJ)の権限を拡張し、国家と市民間の人道的訴えも審理対象に
- 判決履行を監視する「国際秩序監査機構(IOA)」の設立
3. 教育と記憶の共有
- 「記憶の教育」プログラムの国際導入
- 「国際記憶の日」の制定
4. 外交的保証
- 各国が誓約に署名し、相互の信頼と安全保障の基盤を築く
- イスラエルには国際的な安全保障保証を、パレスチナには人道的権利の保護と国家承認への道筋を
秩序を問い直す勇気
紛争とは、宗教対宗教ではない。秩序と秩序の衝突である。
その秩序の中で生きる私たちは、自由に考えているようでいて、実はその秩序に思考を形づけられている。
記憶を盾に変え、秩序を倫理で支える。
それが、ガザ戦争を終結させるための、そして未来の紛争を防ぐための、最も根源的な戦略なのかもしれない。
