繰り返される語りが、問いを封じる
地方企業や二代目社長の会社に関わる中で、管理職の方にヒアリングをすると、社長の語りが決まってこう始まる──
「うちはこういう会社だから」
「この方針はうまくいくはず」
「これは自分が考えた戦略だ」
こうした語りは、ただの口癖ではない。
繰り返されるうちに、組織の空気を決めてしまう。
そして、空気が定着すると、問いが立ちにくくなる。
方針は“降ってくるもの”になり、
現場は“正解”を探すようになり、
問いを立てることが“リスク”になる。
語りだけが強くなり、判断の根拠や流れが見えなくなっていく──
それが、ナラティブ・バイアスによる組織の歪みだ。
語りが根を覆うとき──ナラティブ・バイアスとは何か
人は、筋の通った語りに安心する。
意味がつながっているように感じられるからだ。
問い直すよりも、納得して進むほうが楽で安全に思える。
だが、語りが強くなりすぎると、判断の流れが見えなくなる。
本来なら「なぜその方針なのか」「どう決まったのか」といった問いが立つはずの場面でも、語りがすべてを覆ってしまう。
ケンブリッジ大学の研究でも、リスク評価は語りの強さに左右されることが示されている。
語りが強すぎると、判断が“物語頼り”になり、根拠が曖昧になる。
本来の意思決定は、語りではなく、状況や仕組みに基づいて行われるべきものだ。
たとえば──
- 市場環境の変化
- 顧客行動の推移
- 組織内の対話温度
- 意思決定プロセスの透明性
こうした座標をもとに判断することで、語りに引きずられないマネジメントが可能になる。
問いが跳ね返される構造では、人は育たない
語りが繰り返される組織では、方針は“上から降ってくるもの”になる。その方針に対して、問いを返す空気がない。結果として、管理職は「中継者」になり、判断の経験を積めない。現場の若手たちは、次第に空気を読むようになる。「波風を立てないこと」が善とされ、自分の考えよりも“正解らしきもの”を探すことが優先されていく。
問いを立てることは、空気を乱す行為として避けられ、やがて、考えることそのものが“リスク”になっていく。
問いが跳ね返される組織では、育つのは“語りをなぞる人材”だけになる。
構造を編む経験がないまま、役職だけが上がっていく。
そして、語りの再演が組織の正義になる。
イエスマンが集まるのは、跳ね返しても意味がないから
語りが強すぎる組織では、問いが跳ね返されるだけでなく、跳ね返しても何も変わらないという諦めが生まれる。
「社長の語りには逆らえない」
「方針は演出であって、再設計の余地はない」
「問いを持っても、聞いてもらえない」
こうした空気が定着すると、問いを持つ人は沈黙し、語りに沿う人だけが昇進する。語りに疑問を持たない人が「優秀」とされ、問いを持つ人が「面倒」とされる。
やがて、問いを持つこと自体が“損”になる。
だから、合わせるしかない
──そう思わせる構造が、イエスマンを生む。
語りと構造のズレを見抜く“問い”とは?
たとえば──
- 「この方針は、どのような流れで決まったのか?」
- 「現場の状況は、方針を出す前に検討されたのか?」
- 「この判断に使われた情報は、数字か?事例か?それとも“経験”だけか?」
- 「この会社で、“それって本当に?”と聞ける場面はあるか?」
- 「管理職は、方針を“伝える人”になっていないか?“考える人”になれているか?」
こうした“問い”は、語りの裏にある判断の流れや、現場との接続を見抜くための入口だ。そして、それは組織のあらゆる層から自然に立ち上がってくる。
“問い”は、外から差し込む光──ヒアリングが構造を照らす
私は、ヒアリングの場において、管理職だけでなく、新入社員にも必ず話を聞く。
なぜなら、“問い”は両者から立ち上がるものだからだ。
管理職の語りには、その会社特有の意思決定の流れや、業務の進め方の“構造”が埋め込まれている。
一方、新入社員の違和感は、その構造が“業界全体に共通するものか”“その会社だけのものか”を照らし出す。
管理職の語りと照らし合わせることで、その違和感が何を照らしているのか──構造の歪みなのか、個人の誤解なのか──を見極める必要がある。
違和感が生まれるということは、何かが“外部の常識”と接続していないということ。そのズレを丁寧に辿ることで、語りに覆われた構造の輪郭が見えてくる。
“問い”とは、外から差し込む光であり、その光が届いたとき、組織は初めて、自分の“かたち”を見直すことができる。
語りの影に隠れていた構造が、問いによって輪郭を持ち始める。
そしてその輪郭が、再設計の座標になる。
“問い”を立てる人を、増やせるか
問いを立てることは、構造を編み直すこと。
そしてそれは、管理職だけの役割ではない。
新入社員の違和感も、現場の声も、“問い”として受け止められる構造があるか──それが、組織の未来を決める。
あなたの組織に繰り返されている語りは、
どんな判断の根を覆っているだろうか。
その語りに、“問い”を返す余白はあるだろうか。
問いを立てたとき、ズレに気づくことがある。
けれど、その先をどう動けばいいかは、簡単ではない。
構造を編み直すために、サポートが必要でしたら、どうぞお気軽にお声掛けください。
